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第6章 距離 (5回目)
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《 2020年12月19日 》
江ノ島へ出掛けた日にサラから忘れられない人がいると聞いても、あまり問題ではないとも思えた。
悪い言い方をすれば、昔の記憶なら少しずつ薄れていくだろうと考えていたからだ。
サラの目の前にいない相手よりも、俺の方が断然有利なはず。
だが俺たちには、ゆっくりと距離を縮めているような時間は残されていない。
しかも、チャンスはあと数回だけ。
自宅のリビングのテーブルに置かれたメモ紙は、サラの江ノ島へ行った日の帰り際に、彼女から渡された携帯電話番号だった。
そこにサラの住所も書かれている。
現代ならアプリでのメッセージは当たり前のツールとして使われているが、あの時代にはまだ普及されていない。
たしか東日本大震災以降に広まったと、どこかで聞いたことがある。
俺の番号は渡しそびれた。
いや、逆に良かったのかもしれない。
繋がらない可能性の方が高かったし、変にサラに期待を持たせなくてすむ。
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