第6章 距離 (5回目)

1/20
前へ
/229ページ
次へ

第6章 距離 (5回目)

*** 《 2020年12月19日 》   江ノ島へ出掛けた日にサラから忘れられない人がいると聞いても、あまり問題ではないとも思えた。  悪い言い方をすれば、昔の記憶なら少しずつ薄れていくだろうと考えていたからだ。  サラの目の前にいない相手よりも、俺の方が断然有利なはず。  だが俺たちには、ゆっくりと距離を縮めているような時間は残されていない。 しかも、チャンスはあと数回だけ。   自宅のリビングのテーブルに置かれたメモ紙は、サラの江ノ島へ行った日の帰り際に、彼女から渡された携帯電話番号だった。 そこにサラの住所も書かれている。  現代ならアプリでのメッセージは当たり前のツールとして使われているが、あの時代にはまだ普及されていない。  たしか東日本大震災以降に広まったと、どこかで聞いたことがある。   俺の番号は渡しそびれた。  いや、逆に良かったのかもしれない。  繋がらない可能性の方が高かったし、変にサラに期待を持たせなくてすむ。  
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加