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「名前、聞いてもいいかな」
「サラです。瀬戸山サラ」
「俺は、岸本って言います。歳はいくつ」
「22。⋯⋯岸本さんは」
「31だよ」
年齢よりも、かなり若く見える。
私と同じぐらいか、年下と言われても、納得できるくらいの風貌。
重めのバングのマッシュボブ。
最近、こういう髪型の男性ってよく見る。
毛先に軽くパーマをかけて、ふわふわと柔らかそうな髪質。栗色の髪色は、暗い店内でも、その明るい色がよく分かる。
仕立ての良さそうな濃紺のテイラードジャケットを着ているからか、大人っぽい雰囲気だけれど、その中に合わせたのが白Tシャツだから、若い印象を受けるのかもしれない。
気取らないフランクな笑顔と、親しみやすい鼻にかかった低い声のせいか、緊張の胸の高鳴りは、さっきよりもいくらか静まり、居心地良ささえも感じ始めていた。
「サラちゃん、仕事は何を」
「編集の仕事をしています」
「編集って、もしかして児童書とか」
突然、彼の口から「児童書」というワードが出たので、心臓がキュッと音を立てた。
まさか――。
いや。知るはずないじゃない。
初めて会ったばかりなのに。
「⋯⋯いえ。デジタルコンテンツの編集担当をしています。でもなぜ、私が児童書の担当をしていると思われたんですか」
「いや、なんとなくだよ。なんとなく」
「なんとなく、か。ですよね」
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