第6章 距離 (5回目)

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 私は思い付いたように、手洗い場の横の地面に、持っていたハンカチを丁寧に広げて、そこに座って待つことにした。  日が翳り始めているのに昼間の熱がまだ地面に残っているからか、じんわりと温かく心地が良い。  ランドセルの中に手を入れて、鮮やかな赤色をしたあやとりの糸と図書室で借りてきたあやとりの本を取り出して、膝に置いた。  ちょうど今、私だけにあやとりブームがやって来ていた。  たまたま見ていたTVアニメの主人公がしていたあやとりの技を、どうしてもやってみたくなったからだ。  膝の上に開いたあやとりの本の文字が、薄い朱色に染まっているのに気付いてふと見上げると、西日が切れ切れな雲を幻想的な色に変えていた。  そして遠くの方から夕焼けチャイムが響く音色がした。聞き慣れたその音は、時計を見なくてももう17時だと私に教えてくれる。  もう、こんな時間。  和也くんどうしたんだろう。  辺りを見回しても誰の姿もない。  そのとき、突然後ろからクラス担任の山本先生に声を掛けられた。  ――あら、どうしたの。サラちゃん。 ――わぁっ。先生。 ――もう夕焼けチャイム鳴ったわよ。 ――佐藤くんと帰ろうって約束したのに、まだ来ないんです。 ――あら、そうなの。でももうこんな時間だし、もしかしたら他の子と帰っちゃったじゃない。だからそろそろ帰りなさい。もう少しで真っ暗になるから。   私は仕方なく諦めて、学校を後にした。 
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