第6章 距離 (5回目)

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* 《 2010年12月19日 》  「はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯」   激しく肩で息をしながら、例のバー「フトゥーロパッサート」の扉を押した。   この店に来るのも何度目だろう。  カウンター上の照明だけがぼんやりと灯り、ひっそりと静まり返っている。  16時だと、まだ開店準備中か。  店の中ほどまで歩みを進めると、ガタガタッとカウンターの方から物音がしたので、とっさに身構える。  「あら?」 「マスター!」 「どなたかと思えば岸本さんじゃないですか。今日はこの時間にいらしたんですね」   マスターがカウンターの陰から、文字通りニョキっと顔を出して笑顔を見せる。 「脅かさないでくださいよ」 「これは申し訳ありませんでした。脅かしてしまいましたね。今日で何回目ですか」 「⋯⋯もう5回目です」 
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