第6章 距離 (5回目)

14/20
前へ
/229ページ
次へ
* ――3時間が過ぎた。   あったけぇ~。  マンションの目の前のコンビニで買ってきたホットコーヒーの缶で、両手を温める。  師走の夜の寒さはさすがに身体に堪える。   コーヒーを一口含んで飲み込むと、芯まで冷え切っていた身体に温かさが染み渡り、吐いた白い息がフワッと丸く広がった。  腕時計の針は20時を指している。  部屋で寝てるって可能性もあるか。  もう一度だけインターホンを押して、それでもダメだったら諦めよう。   ピンポーン。   全く微動だにしない扉。  大きな音だけが悲しく響く。   まさか、俺の態度にうんざりして会うのをやめたとか。無駄に焦ってサラとの関係を強引に進めようとなんてするから――。  あーっ! もう、うまくいかねぇ!   たったひと目でいいからサラに会いたかった。  感傷的な深いため息をつく。  おもむろにバックの中からペンとさっきの缶コーヒーのレシートを取り出し、その裏にサラへのメッセージを書いて部屋のポストに入れておいた。  どうか、サラが気付きますように。 
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加