第6章 距離 (5回目)

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「⋯⋯やだよ。この前が最後だなんて」   抑えていた感情が堰を切ったように涙となり、ポロポロと溢れ出す。  会いたいよ。カズヤに――。   ひとしきり泣いた涙が乾いた頃には、胸の思いが確信に変わっていた。  カーテンと窓を一気に開けて、新鮮な空気の匂いを嗅ぐように深呼吸をして吸い込む。  酷く重かった身体もだいぶ楽になったし、抜けるように澄み渡る青空も惜しいから、少し散歩にでも出掛けようか。   空に向かって大きく伸びをする。  すっかり身体は良くなったみたい。  散歩がてら、神保町の行きつけの古書店へ寄った。大好きな店主のおじさんと少しだけどお話もできたし、以前から欲しかった本にも出逢えた。  軽い散歩のつもりが、太陽はとっくに落ちてしまった。だいぶ遅くなっちゃった。  自宅の鍵を差し込む。  最近鍵の入りが悪いんだよね。  油を差しておかないと――。  扉の裏側にあるポストの取り出し口を開けると、チラシに混じって入っていた紙切れのようなものが、はらりと足元に落ちる。   コンビニのレシート?   ゴミを入れられたのかな。やだなぁ。  そのレシートを裏返すと、何やら小さな文字が書いてある。 
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