第6章 距離 (5回目)

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「カズヤ」の漢字が小4の「和也くん」と同じだったことを、この小さなレシートの文字で初めて知る。  レシートを裏返してみると、そこに記載されていた日付はまさに今日だった。  しかも、1時間前――。  さっきまでここに和也がいたんだ。  でも、なぜ昨日じゃなくて、今日なの?  約束は昨日のはずなのに。  昨日は私が彼のことを待っていた。  今日は彼が私を待っていた。  ずっと家の前にいたから寒くてコーヒーを買ったのかもしれない。  ――和也。心の底から会いたかったよ。  レシートの番号に電話を掛けてみる。 『 おかけになった電話番号は電波が届かない場所に――』  圏外か――。  胸の中のロウソクにポっと小さな明かりが灯ったような温かさを感じた。  まだ小さいけれど確かに灯り始めている。  でも私の周りには、まだ言い知れぬ不安がふわりふわりと漂い続けていた。  
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