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あの日のサラの恥ずかしそうな笑顔を思い出しながらしばらく眺めているうちに、ふとその写真の違和感に気付く。
いや、違う。
これは、あの時の写真じゃない――。
クラゲの大水槽が見られなかったとふてくされるサラの手を引いて、カメラマンに写真を撮ってもらったから間違えるはずはない。
サラは不機嫌な表情で映っていた。
それなのに、手の中にある写真のサラは、眩しいくらいの満面の笑みを見せていた。
慌てて封筒の中の手紙を開く。
『 和也へ。
このあいだサラちゃんのお母さんに誘われて、ご自宅へ伺ってきました。
同封した写真はサラちゃんが生前にとても大切にしていたそうで、良かったら和也にこの写真を持っていて欲しいとお母さんが仰っていました。だから送っておきます。
母より 』
過去が、変わり始めたんだ――。
頬に冷たい感覚がして、手で払う。
一粒の涙だった。
良かった。
本当に良かった――。
サラの未来がようやく動き始めたんだ。
これまでのことは無駄じゃなかった。
俺が信じなくて誰が信じるんだよ。
安堵して手から落とした新聞の日付を見て、俺はまた驚きに息が詰まる。
「嘘だろ⋯⋯19日って」
サラとの待ち合わせは18日だった。
まさか、日付を間違えていたなんて。
しばらく呆然としていたが、だんだんと事の次第が理解できると可笑しく感じた。
またすれ違いってことか――。
こんなこと、小学校の頃にもあったな。
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