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正直言えば、最初にあの提案を聞かされたときは半信半疑だった――。
8ヶ月前にサラの死を目の当たりにして、俺は心の行き場を完全に失くしていた。
そんな俺に持ち掛けられた嘘のような提案に、藁をも掴む思いで一縷の望みをかけた。
だがこの時代のサラとの心の距離は思うようには縮まらず、闇雲に焦るばかりでここに来た意味すら見失いそうになっていた。
たぶん初めに思っていた、サラを救う使命が俺に与えられたという考えそのものが、根本的に違っていたんだ。
大いなる使命や後悔をやり直すためなどではなく、幸せの本質とは苦しい困難を乗り越えた先にあると、俺に気付かせるためだっんじゃないだろうか。
サラの死によって、俺は犯した罪を償う機会を永遠に失くした。
サラにもう二度と会えないことも辛かったが、彼女に謝る機会を失くしたことがさらに俺を苦しめた。
だからサラを救えるチャンスが万に一つでもあるならば、俺の命を賭けてでもやらなければならないはずだ。
罪の意識を持ったまま今後どう生きていくのかを考えろと、目の前に突き付けられているような気がしていた――。
「会いたかった。和也⋯⋯」
俺の腕の中で肩を震わすサラが「会いたかった」と言ってくれたのが素直に嬉しかった。
大きな瞳から次々と溢れ落ちる涙を、指の腹でそっと拭う。泣き虫なところは昔とちっとも変わらない。
サラに悲しみの涙を流させないためにも、限られた時間の中で決して諦めずに考えられる全てをやってみることが、結果的にサラを救うことに繋がると信じよう。
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