第1章 誕生日 (1回目)

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 岸本さんにはそう言ったけれど、本当は作家になる夢も、結婚の約束をした男の子に会いたいという願いも、心に予防線を張って、必要以上に期待をするのをやめた。  夢も、願いも、叶わないと気付いたときに、大きなショックを受けずに済むように。  そんなに、私は強くない。  弱く見せないように、無理をしてるだけ。  逆風に立ち向かう気力も、体力も、もうほとんど、残っていなかった。  ただ、お守り程度に、心にその思いを持っておくだけなら、傷付かずに済む。  そうやって自分に言い訳をしながら、これまでなんとか心を保ってきたんだ。  人に夢の話をするのは、小学生ぶりだった。  結婚の約束をした男の子に、私が書いた小説を見せると、「すげぇ面白いじゃん」と、いつも大袈裟に褒めてくれた。  それが嬉しくて、たくさん書いて、たくさん彼に読んでもらっていた。  あの日々があるから、今の私がある。 ――初恋の相手。  とても幼く、淡い淡い恋心。  とても甘くて、とても苦かった思い出は、今もまだ、私の胸の中で、お守りのようにちゃんと存在している。  彼は今ごろ、何をしているのだろう。  そして、私の夢を、今も覚えてくれていたりするのだろうか。  会いたいな。もう一度、彼に。
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