第7章 真実 (6.7回目)

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 少し古い型の車だったから、備え付けられているオーディオはCDだけだった。  残念ながら、事前にCDを用意する時間もなかったし。  途中で沈黙が訪れたときのためにもBGMが欲しかったので、俺のスマートフォンをサラに渡し、その中に入れてある曲を車内で流してもらうことにした。  「和也の携帯って、カメラのレンズが3つもあるんだね。私、機械とかって、あまり詳しくないから、最近の機種も全然知らなくて」  たぶん、サラがいるこの時代のものとは、だいぶ形が違うんだろう。  近年の通信ネットワークは、数十年前には予想できないほどの大きな進化を遂げた。  2011年はガラケー全盛期だから、スマートフォンが普及するのはまだまだ先。  その年は、俺たちがデビューをした年。  それに忘れてはならないのが、東北で東日本大震災が起きた年でもあるということ。  来月には、あの大災害が起きるのか。  あれから10年。  時が流れるのはとても早いのに、強い悲しみの記憶が薄れるのは途方もなく遅い。  いまだに、緊急地震速報のあの警報音を聴くと、心臓がキュッと音を上げて縮み込む感覚に襲われる。  あの日、東京にいた俺でさえも、いまだに恐怖心が残っているのだから、東北の人たちの心中を想像するだけでも、胸が痛む。  当時に起きたことを、過去の出来事として捉えるには、多くの人が多くのものを失い過ぎていて、たぶんまだ、もう少し時間がかかるだろう。  来月にあの大震災が起こるという事実を知るのは、すでに大震災を経験した俺だけ。  それなのに、己の無力さを突き付けられても、ただ無事を祈ることしかできない。
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