第7章 真実 (6.7回目)

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*  和也の運転する車に乗って、1時間半。  車の時計を確認して、ハッと驚いた。  自宅を出発してから、ここまでの体感時間は、数十分程度に感じていたからだ。  最初のデートのときは、ガチガチに緊張して全身が強ばっていたし、和也とうまく視線すら合わせられなかった。  和也と車で出掛けるのは、これで三度目だけれど、回数を重ねて行くうちに、彼の助手席の居心地良さを実感していた。  若干眠くなってしまうくらい、リラックスした時間を過ごしているうちに、窓の外の景色の雰囲気が、もう東京のそれとは全く違っていた。    もう自分の気持ちの狭間で揺らがない。  誰かに恋心を抱くことが久しぶりすぎて、慎重を通り越して、臆病になっていたんだ。  新しい自分に変わっていきたい。  今は本心から、そう強く思っている。   深い緑の木々に囲まれた急勾配の道を、エンジンを低く唸らせながら、しばらく真っ直ぐ上がって行く。  鮮やかな緑たちが、私たちを導いてくれているような道を過ぎると、突然真っ青な空が視野いっぱいに広がる。高台に出たようだ。  晴れて空気が澄んでいるからか、遠くの山々にうっすらと雪が被る様子まで見える。  見晴らしの良い景色を眺めながら、旅行に来た実感のようなものを感じていると、再び、木々の緑の陰に車が入っていった。  その先は行き止まりになっている。  どこかの建物の敷地内に入ったようだ。  私の目は、その建物に釘付けになる。  辺りの景色に馴染む上品な色使いをした、風格のある屋敷のような造り。   「うわぁ。素敵な建物」   日本建築と西洋建築を融合した、奥ゆかしい情緒の中にモダン的な要素を細部に散りばめたような繊細さがある。まるで大正時代に、タイムスリップしたかのよう。  日本の情緒性と西洋の合理性。  古いものと新しいもの。  和装と洋装。  変わらないモノと変わっていくモノの中に、新しい時代への理想が感じられる。  その建物を見上げ、造られた頃の人々の心情に思いを馳せる。
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