第7章 真実 (6.7回目)

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「さぁ、着いた」 「えっ。この建物」 「ここ、旅館なんだよ。前に仕事で来たことあって。すごく雰囲気が良かったから、機会があれば、また来たいって思っていたんだよね。今日は、ゆったりと過ごせるように、部屋も用意してもらっているから」  和也の言葉に、また心臓が速くなる。  部屋って、そういうことかな。  違う。きっと、ゆっくりできるように、気遣ってくれているだけだよね。  皇族や貴族の邸宅かのような、きめ細やかなこだわりが感じられる内装に、思わず背筋が伸びる。  上品に振る舞うって、どんな感じだろう。  もっと、ちゃんとした服を来てくれば良かったと、少し後悔する――。  和也がスマートにチェックインを済ませ、年配の気の良さそうな笑顔を作る仲居さんの案内で、館内の廊下を和也と進んで行った。  知らない周りの人から見たら、私たちの関係は、どんな風に映っているのだろう。  フロントからだいぶ進んだけど、どこまで行くのだろう。この建物の奥行は私の想像以上に長く広くて、一人でもう一度入口に戻れと言われても、確実に迷う自信がある。  一度建物の外へ出たと思ったら、渡り廊下のような場所を進み、その先に、棟ごとに分かれた「離れ」のようなものが姿を現す。  まだ部屋にも着いていないのに、すでに高級旅館の雰囲気に飲まれていた。 「お客様のお部屋はこちらでございます」と、その中の一つの棟の引き戸を、仲居さんが静かに引いた。  その先に現れた色鮮やかな景色に、私は思わずため息を漏らす。  琉球畳が碁盤の目のように敷き詰められ、私の自宅の3倍はありそうな広さの和モダンの部屋の奥にある、絵画のような日本庭園の佇まいに、言葉を失う。  目隠しのためなのか、奥に植えられた高い針葉樹の足元には、飛び石や燈籠がバランス良く配置され、周囲の彩りを映す池には、色鮮やかな錦鯉が優雅に水と戯れている。
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