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和也の顔が、まともに見れなかった。
部屋に用意されていた、淡い白地に朝顔の絵が描かれた浴衣を無言で手に取り、隣の部屋の襖を閉めた。
こんなんじゃ、心臓がもたないよ。
でも、私のことをもっと知って欲しい。
肌に当たるとひんやりと感じる浴衣の袖に、スルリと腕を通し、息を整えるように心を鎮めながら、私の身も心も全てを、和也に見せる準備をした。
和也が怖いわけでもないのに、なぜこんなに不安なのだろう。
部屋を出ると、先に着替え終わっていた和也が、ベットで携帯電話を眺めていた。
浴衣に着替えた私に気付き、しばらく言葉も発さずに、じっと熱く見つめる。
「うん。すごく色っぽい。サラ」
和也の言葉に、背中がゾクゾクする。
熱い視線を張り付けたまま、和也はゆっくりとこちらに近付いてくる。
どうしよう。どうしよう――。
目をつぶり、身構えた私を、躊躇なく抱き寄せた和也の唇が、優しく重なる。
私のことを、壊れ物みたいに大切に扱ってくれる人。
やっぱり、和也が好き。
その幸福感が、全身を包み込む。
「大好きだよ、サラ」
「⋯⋯うん」
「じゃあ、お風呂行こうか」
「そうだね⋯⋯」
また私の頭をそっとポンポンと触って、和也は顔をクシャッとさせて笑った。
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