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また長い廊下を抜けて、一階の本館を抜けた先に大浴場があった。
その隣に、貸切露天風呂の部屋が並ぶ。
和也と話し合って、まずは大浴場に行くことにした。
平日の午前中だからか、館内には人の姿があまり見られない。
さっき見掛けた、仲居さんに誘導されてエレベーターに乗り込む、一組の年配のご夫婦くらいだった。
「仕事の休みが取れると、たまに友達誘って、温泉に行ったりするんだよね」
「和也は友達が多そうだからな」
「多くはないよ。心を許せる大事な友達は、数だけだよ」
「心を許せる人か。大事だね」
私に、そんな存在の人はいない。
その理由も分かってる。
誰に対しても、心を許すことがないから。
でも和也には、私の全てを見せたいと思っている。自分でも、不思議だけれど。
「大浴場」と書かれた場所に、大きな色違いの暖簾が二つ掛かっていた。
朱色が女湯、紺色が男湯らしい。
時間によって、この暖簾が取り替えられるようなことも、注意書きに書いてある。
「時間、どうしようか。30分じゃ短いし、一時間だと長すぎるか」
「40分ぐらいもらえると、有難いかな」
「じゃあ、40分後ぐらいに、またこの入口で待ち合わせしようか」
「うん。じゃあ、また後で」
和也と大浴場の入口で別れ、朱色の暖簾をくぐりぬけて、その先の廊下を進んだ。
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