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ひっそりと静まる脱衣所を抜けて、扉を開けると、そこにあったのは別世界だった。
窓から差し込む自然光が、広々とした檜風呂に張られたお湯に反射して、チラチラと光を揺らす。モクモクと湯気が上がる、熱めのお湯に身体を沈めると、身体に積もった疲れが、お湯に溶けていくような感覚がした。
周りを見回してみたが、大浴場にもその先にある露天風呂にも、人影はない。
内風呂から上がり、屋外に出ると、山の涼しい風が頬を撫でた。
少し汗を滲ませた肌を、風が通り抜ける感覚が心地よい。
新鮮な空気を大きく吸い込んだ。
それから、深緑の木々と、川のせせらぎの音に囲まれた、露天風呂に肩まで浸かった。
贅沢な時間。
こんなにのんびりした気持ちになるのは、本当に久しぶり。
お風呂上がりは、さっきの部屋で、ゆっくりと身体を休ませて。
でも、もしかしたら、そのあと――。
温泉で火照った身体が、さらに熱くなる。
「うわぁ~」
今の、和也の叫び声だよね。
隣のお風呂からかな。
「和也、そこにいる?」
「サラ? 露天風呂で滑って転んだ」
「えっ、大丈夫」
「平気平気」
「もしかして、サラの方も誰もいないの」
「そう。私だけ」
「男風呂も誰もいないから、貸切だよ」
「こんな広いお風呂に一人だなんて、少し勿体なく感じるね」
「じゃあ、俺もそっちに行こうかな」
「また、そんなこと言って」
「冗談だよ~。俺、そろそろ出るから」
「じゃあ、私も少ししたら出るね」
お風呂の向こうとこちらで恋人同士が会話している光景に、少しだけ憧れがあった。
でも、やっぱり恥ずかしい。
どうしよう――。
私、完全に舞い上がってるかも。
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