第1章 誕生日 (1回目)

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「イタリアンバーって、珍しいですよね」 「あぁ。ここって、イタリアンバーなんだ」  岸本さんは店内を軽く見回した。  常連客ではないのかな。 「私、イタリアで生まれて、しばらく向こうに住んでいたんです。ちょうど、小学生に上がる時期に、こっちに来て」 「じゃあ、イタリア語話せるんだ」 「残念ながら。読むことはできるんですが」 「子どものころだったら忘れちゃうよね」 「私の『サラ』って言う名前、イタリア語で、『お姫様』っていう意味なんです。父が付けてくれた名前なんですが、自分でその説明をするのがいちいち恥ずかしくて」 「可愛い名前だよ」 「やっぱり、恥ずかしいですね。イタリアにいたときの思い出も、実は、あまり残ってなくて。でも、ピアディーナという料理の記憶だけは、今もはっきりと覚えています。母がよく作ってくれた、思い出の料理なんです」 「それって、どんな料理なの」 「サンドイッチにも似ているんですが、薄いパスタの生地に⋯⋯」 「トマトとか、ハムを、挟むやつじゃない」 「えっ、岸本さんもご存じなんですか」 「あぁ、いや。似たような料理を、前に見たことがあってね」 「ピアディーナ、大好物なんです」 「へぇ、そうなんだ⋯⋯」  岸本さんが、私の好きなイタリアの料理を知っていることが、素直に嬉しかった。  懐かしい故郷の思い出を共有したような、そんな気分になれた。
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