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身支度を済ませて、大浴場の入口に向かうと、タオルを被ってバサバサと髪を拭いている、和也の姿が見えた。
胸がドクンと波打つ。
いつもと違う和也の姿は、色気のようなものを発していた。
「おまたせ。和也」
「すごくいいお風呂だったね」
「うん⋯⋯」
濡れ髪の和也は、一段と格好良かった。
外で会う和也よりも、心の距離が近づいたような気がする。
胸の音が、自分の耳にまで聴こえる。
私、まるで魔法にかかったみたい。
胸に手を押えて、自分の心臓の速さを確認していたら、余計に緊張してきて、部屋まで戻る間は、少し無口になっていた。
部屋に戻り、和也が入口の襖を閉める音が、静まり返った部屋に響く。
それから、空気がピンと張り詰めたような静寂に包まれる。
その沈黙に耐え切れなくなって、和也に背を向けると、少しだけ距離を取った。
カラカラカラ――。
庭側の大きなガラス戸を、和也が開けた。
そこへ腰を下ろし、外へ素足を投げ出す。
私も外の空気を吸いたくて、和也から少し離れたところに座った。
「こういうゆったりした時間が、贅沢な時間って言うんだろうね」
「うん。今日は、誘ってくれてありがとう」
「まだ来たばかりなのに、もうすぐに帰るみたいな口ぶりだね」
「うふふ。そうだよね」
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