第7章 真実 (6.7回目)

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*  クシャクシャにされたベッドシーツに包まれる、気怠そうなサラは、俺の腕の中で子猫みたいに微睡んでいる。  艶々とした頬は、上気して淡いピンクに染まり、無造作に乱れている柔らかな長い髪が、サラの顔にかかる。  その髪を、そっと払った。  愛しい顔を見せてくれ。 「どうしたの。和也」  目を薄く開いて微笑むサラは、俺に顔を寄せ、軽くキスをした。  サラの全てを愛したいし、俺の全てをサラに愛して欲しい。  お互いの心の中を、わずかな隙間も作らずに、埋めつくし合いたかった。  化粧っ気のないサラは、まるで少女みたいだった――。   そういえばあのときのサラも、素顔に近い笑顔で、こちらに笑いかけていた。  葬儀場で見た笑顔の遺影。  あの情景がまた頭に浮かんで、ベッドに全裸のまま横たわる背中に、寒気が走る。  唐突に突き付けられた、サラとの永遠の別れという、無残な現実。  もうあの未来が、この世界の先に存在していないと信じたい。徐々に未来は変わってきているはずだ。  人間は、目の前に存在する人や物事に見慣れてくると、「当たり前の存在」だと、脳内は判断を始める。  この世に、当たり前のものなんて、何一つもないはずなのに。  今握っている、サラの手が温かいことも、本来は触れられるはずもない、サラの身体を感じていることも、全てが奇跡の欠片の一つ。  この奇跡の中で、何ができるのだろう。
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