第8章 追憶 (9回目)

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 水の入ったグラスを、俺の前にそっと置くと、バーテンは話を続ける。  「過去へ行って、ご自身がこれまでの人生の中で後悔していることを、やり直したり、経験し直すこともできますし、未来へ行って、その先に繋がる景色を見てくることも可能です。ただし幾つかのルールがございます」   バーテンは、人差し指を立てた。  「一つ目のルールは、未来か過去に行く回数は、合わせて10回までです。どのような不測の事態があっても、決してプラスはいたしません。一生涯の中で、10回までです」   次は、指を2本にする。 「二つ目は、決して、違う時代のご自分には、お会いにならないでください。同じ時代に、二人の同一人物が長期間いることも、ルールで厳しく禁止されています」   3本目。  「三つ目は、必ず日をまたがずに、日付が変わる前にお戻り下さい。戻って来られなかった場合は、ペナルティが課されます」 「⋯⋯ペナルティまであるんですね」 「はい、もちろんでございます。もしも、その場合は、他の時代に行く回数が、一回分減ってしまいます」 「減るんだ」   4本目。  「四つ目は、もしお客様の行ないによって、過去や未来が変化することになっても、もう二度と元に戻すことはできません。以上がルールです。それでも、やり直されますか」   その唐突で、まるで冗談みたいな話を聞いて、俺は眉間に皺を深く寄せて考え込んだ。
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