第8章 追憶 (9回目)

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「では、お願いできますか」   ひとまず落ち着こうと、目の前の水の入ったグラスを一気に飲み干す。  「では早速、時間を越える方法をご説明いたします。この店の奥の突き当たりを、まず右に進んで下さい。その先に、大きな鏡がありますので、鏡の端にある小さな取っ手を引いて、中へ進みます。そのとき必ず、どの時代へ行きたいのか、具体的に頭の中で考えながら、進んで下さい。つき当たりのドアを開けると、違う時代のこの店に着きます」 「あっ、えっと、分かりました。とりあえず、行ってみます。本当に、いろいろとありがとうございました」   軽く頭を下げ、俺が席を立とうとすると、バーテンはグラスを拭き始めた手を、再び止めた。 「あぁ、忘れていました。違う時代へ向かうお客様へ、一つだけ、贈り物を差し上げてもよろしいでしょうか。お客様がこれから会いに行かれる方は、ちょうど10年前の、今日、この店にいらしていますよ。そして、過去や未来に行っても、時刻だけは、現在と同じですからね。幸運をお祈りしています」   時刻は、22時。  日付が変わるまで、あと2時間か。  「では、行ってきます!」   逸る気持ちで、店の奥へと向かった。 
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