第8章 追憶 (9回目)

10/24
前へ
/229ページ
次へ
 10年前の、この辺りってことになる。  何かの変化があるのだろうか。  だが、店の周りに建つビルが、心做しか、知っている姿よりも新しく見えたくらいで、街の雰囲気もさほど変わりはない。   2010年ってことは、俺たちのデビューの前の年か。  がむしゃらに進む術しか知らなかった、あの頃の俺に言ってやりたい。どんな苦難があったとしても、そのまま迷わずに進めと。  10年前の空気も今と変わらず、ジトっと湿ぽく肌に纏わり付き、その汗を乾かすように、ビル風が頬をすり抜けていった。  他に行くあてもないし、店の中で待っているとするか。   酒でも飲んでいようかと、改めてカウンター席に着き、バーテンに酒を頼んだタイミングで、入口の扉の音が鳴った。  俺とサラにとっての新しい扉が、音を立てて開いた瞬間だった――。  
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加