第8章 追憶 (9回目)

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*** 《 2011年2月13日 》  サラと話をして、どれくらいの時間が経ったのだろう――。  二人で泊まりに来た旅館の部屋で、真正面に向かい合い、この時代に俺が初めて来た日から、これまでに経験した不思議な出来事や、その経緯について、出来るだけ分かりやすく、順序立てて説明をしていた。  身振り手振りも交えながら話す俺を、サラは険しい表情で、黙ったまま見つめている。  一通りの話が終わると、サラは息をするのも忘れていたかのように、長く長く息を吐き出して、目を閉じた。 「驚かせてごめんね」 「ものすごく、驚いてる。これまでの人生の中で正しいと思っていたことが、全て覆されちゃったみたい。ほら、オセロをやってて、あともう少しで勝てるってときに、全部裏返しになるみたいな、そんな感じ⋯⋯」 「ショックを受けて当たり前だよ」 「ショックなのか、それすらも、まだよく分からない⋯⋯」 「混乱するよね」 「あっ、そうだ。私、やだぁ⋯⋯」  何かを思い出したように、顔を真っ赤に染めて、それを隠すように両手で覆った。 「えっ、どうしたの」 「前に、水族館へ行ったとき、忘れられない人がいるって、和也に言ったよね⋯⋯」 「あぁ。そうだったね」 「あれね、和也のことだったの。それなのに、本人に向かって、その人のことが好きだって言ってたのと同じだよね。恥ずかしい」「そういうことだったのか」 「でもね、あれからずっと、和也を忘れられなかったの」  サラは耳まで真っ赤にさせて話している。  こんなところが、好きだ。  顔を隠すように手で覆ったサラを、その思いごと、全部抱き締める。 「それって、昔も、今も、俺のことが好きだってことで、いいんだよね」 「えっ⋯⋯」 「俺も、ずっとサラが忘れられなかった」  胸の中で「分かってる」と言うように、サラが小さく頷いた。
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