第8章 追憶 (9回目)

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「じゃあ、和也がこっちに来るのは、今日で何回目? あと何回、残っているの?」 「今回で7回目。でも、日付をまたいだペナルティが、マイナス1回だから⋯⋯」 「えっ、あと2回」 「そうなるね」   サラに会えるのは、あと2回。  たったの2回。  この温もりが、あと数回で、本当に幻になってしまうのか――。  「そんなのやだ。離れたくないよ、和也」   心の声が漏れるみたいに、サラが小さく首を振って呟く。  俺もサラを抱く手に、ギュッと力を入れた。 「どうにかならないのかな。この時代に残る方法とか、タイムスリップの回数を増やすとか」 「たぶん、ないと思う」  二人の間に冷たい沈黙が流れる。  永遠のように、長い一瞬だった。  俺の目の前で、絶望に顔を歪めるサラのために、何もしてあげられない。  あと2回の時間旅行が終われば、この時代のサラのことは忘れて、元いた時代の時間の中で、何事も無かったかのように、それまで通りの生活に戻るのだろう。  サラの未来を変えたいという、元々の願いは、過去が変わったのだから、あと2回のうちに叶うかもしれない。  その願いが叶うことは、もちろん嬉しいけれど、俺の腕の中にいるサラの気持ちを考えると、酷く胸が痛んだ。  その重苦しい沈黙を、サラが破る――。 「ねぇ、和也。残りの2回のうちの1回分を、私にくれないかな」 「サラ、どういうこと」 「私たちの小4の3月25日に戻って、あの日の過去を変えたいの。もう少ししか和也といられないなら、せめてこの先の未来の心に残る、過去の記憶だけでも変えたい」   そのサラの表情からは、揺らぐことのない強い意志がはっきりと現れていた。  瞳は遥か遠く先を見ているようだった。 
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