111人が本棚に入れています
本棚に追加
旅館のチェックアウトを手早く済ませ、二人で車に乗り込む。
行き先は、もちろんあのバー「FUTURO PASSATO」だった――。
まだ午前10時だから、今から行けば、あの時間に間に合うはずだ。
二人で約束した、13時までには。
少し急ぐか。
アクセルを強く踏み込んで加速させる。
「ねぇ、和也。一つだけ訊いてもいい」
「いいよ。いくつでも訊いて」
「私が東京へ引っ越したあの日に、約束の時間に来なかった理由って、本当は何だったの」
「実はさ、あの日、行ったんだよね」
「家の前に、和也はいなかったよ」
「隠れていたんだ。郵便局のポストの裏に」
「⋯⋯なぜ」
「サラを守るだなんて、大見得を切ったのに、四つ葉のクローバーすら見つけられなくて、結局サラに何もしてあげられないのかって、悔しくなってさ。その場から逃げ出したんだ。最低だよね、俺。本当にごめん」
「そうだったんだ。クローバーなんてなくても、和也さえいてくれればよかったのに」
「サラ⋯⋯」
「あの場所に和也がいたのなら、あの時間に行けば、あの日の二人に会えるよね」
サラは、昔の俺たちに会って、一体、何をしようとしているのだろう。
無茶をしなければいいけど――。
「あと、気になってたんだけど。私に会いに来るのなら、他の時代の私でも良かったんだよね。それならなぜ、この時代の私に会いに来ようと思ったの。何か特別な理由があったからなの」
「⋯⋯理由」
「そう」
「たいした理由なんてないよ。ただ、何となく10年前のサラはどうしてるかなぁと思って」
「⋯⋯そうなの? なら、未来の私は幸せに過ごしてるのかな。もちろん、和也のそばにいるよね」
もしかしたら、サラは、俺の言葉の雰囲気から、何かを感じ取っていて、確証はなくても、すでに点と点が線に繋がっているのかもしれない。
どんなことがあっても、この質問だけは、答えることができない――。
最初のコメントを投稿しよう!