第8章 追憶 (9回目)

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 旅館のチェックアウトを手早く済ませ、二人で車に乗り込む。  行き先は、もちろんあのバー「FUTURO PASSATO」だった――。  まだ午前10時だから、今から行けば、あの時間に間に合うはずだ。  二人で約束した、13時までには。  少し急ぐか。  アクセルを強く踏み込んで加速させる。  「ねぇ、和也。一つだけ訊いてもいい」 「いいよ。いくつでも訊いて」 「私が東京へ引っ越したあの日に、約束の時間に来なかった理由って、本当は何だったの」 「実はさ、あの日、行ったんだよね」 「家の前に、和也はいなかったよ」 「隠れていたんだ。郵便局のポストの裏に」 「⋯⋯なぜ」 「サラを守るだなんて、大見得を切ったのに、四つ葉のクローバーすら見つけられなくて、結局サラに何もしてあげられないのかって、悔しくなってさ。その場から逃げ出したんだ。最低だよね、俺。本当にごめん」 「そうだったんだ。クローバーなんてなくても、和也さえいてくれればよかったのに」 「サラ⋯⋯」 「あの場所に和也がいたのなら、あの時間に行けば、あの日の二人に会えるよね」  サラは、昔の俺たちに会って、一体、何をしようとしているのだろう。  無茶をしなければいいけど――。 「あと、気になってたんだけど。私に会いに来るのなら、他の時代の私でも良かったんだよね。それならなぜ、この時代の私に会いに来ようと思ったの。何か特別な理由があったからなの」 「⋯⋯理由」 「そう」 「たいした理由なんてないよ。ただ、何となく10年前のサラはどうしてるかなぁと思って」 「⋯⋯そうなの? なら、未来の私は幸せに過ごしてるのかな。もちろん、和也のそばにいるよね」  もしかしたら、サラは、俺の言葉の雰囲気から、何かを感じ取っていて、確証はなくても、すでに点と点が線に繋がっているのかもしれない。  どんなことがあっても、この質問だけは、答えることができない――。 
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