第8章 追憶 (9回目)

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 サラが31歳のときに、不慮の事故で亡くなる未来なんて――。  いつも真面目で、一度言い出したら後へ引かない頑固さもあったけれど、その一方で、誰かに頼まれるとうまく断れない、優柔不断な性格があったサラ。  社会人になってからも、自分の仕事に真摯に向き合おうとして、キャパを越えた仕事量を抱え、連日、当たり前のように、オーバーワークしていたそうだ。  持ち前の責任感が、限界を越えていたはずの疲労感を、麻痺させていた。  会社からの帰宅途中に、赤信号で横断歩道を渡ってしまったサラは、スピード上げて交差点に入ってきた車にはねられてしまった。  無意識だったのか、それとも意識的だったのかなんて、もう誰にも分からない。  自分の身を削ってまで夢に賭けていたサラ。  だからって、死んでしまったら、夢も何もないじゃないか――。  「⋯⋯いや。向こうの時代では、まだサラに会えていないから、どこで何をしているのか、俺には分からないな。ほら、サラのことだからきっと、元気にしてるはずだよ」   サラに嘘をついた。  酷く下手くそな嘘だったけれど、最大限の愛を込めた嘘だった。 
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