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「和也、覚えてるかな」
照れ笑いをして目を細め、昔のアルバムを捲りながら、記憶を辿るように語り始めた。
「確か小4の夏前くらいかな。学校帰りに、急に雨が降ってきてね。でもその日の朝の天気予報では、雨なんて言ってなかったから、二人とも傘を持っていなくて。それなのに、どんどん雨が強まって、土砂降りになっちゃったの。ほら、通学路にあった、屋根付きのバス停、あそこで雨宿りしたんだよね。そのときに、和也、プロポーズしてくれたんだよ。あれって⋯⋯まだ、覚えてる?」
あぁ、もちろん。よく覚えている。
サラの笑顔をずっと見ていたくて、雨宿りをしたバス停で「俺と結婚して下さい」って伝えたんだ。
子供心に、その言葉をサラに伝えれば、ずっと一緒にいられるような、そんな気がしていたんだと思う。
「あの言葉、すごく嬉しかったんだ。最後はあんな別れ方をしちゃったけど、でも和也がいつか迎えに来てくれるかもしれないって、心のどこかでずっと期待してたの」
サラの顔を直視できなかった。
その思いに応えることはできない。
たとえ、サラの未来が変わったとしても、現代に戻ってから会うサラは、今、隣にいるサラとは、「違うサラ」のはずだから。
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