第8章 追憶 (9回目)

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* 《 2011年2月13日→1999年3月25日 》  25年前の「FUTURO PASSATO」。  まるでこの店だけ、時が流れていないかのように、不思議と代わり映えがしなかった。 「この店って、いつからあるんだろう」   繋いだ手の方に目を向けると、サラはまだ、怯えた表情を浮かべている。  それから、不安な気持ちを吐き出すように、深いため息をついた。  「もうここって、過去なんだよね」 「それは自分の目で確かめた方がいいかかもしれない」   サラの手を引いて、店の外へと出た。  高層ビルが店を囲んでいる様子は、現代とも変わらないが、飲食店がまるでなかった。  カチッとした時代を感じさせるようなスーツに身を包んだ人々が、前の通りを忙しなく行き交っていて、ビジネスマン以外の人間を見つける方が難しそうだ。 「街の雰囲気は、かなり違うみたいね」 「確かここら辺って、昔は金融街だったんじゃなかったかな」 「へぇ。そうなんだ⋯⋯」   まるで田舎から出てきた、新卒の初出勤みたいに、サラは周りの景色を物珍しそうに、キョロキョロと見回していた。 「ほら、サラ。こっち」  店の前の大通りで、タクシーを捕まえてから、呆然としたまま立ち尽くすサラを呼ぶ声を掛けた。  いよいよ、過去と対峙する時が来た。  もうここまで来たら、怖気付いていたって仕方がない。 
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