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タクシーの窓の外の景色は、まるで俺の脳内の記憶を映した映画を鑑賞しているかのような、そんな不思議な感覚がした。
あと15分ぐらいで着くか――。
「和也、見て。ほら、 懐かしい。あの駄菓子屋さん、二人でよく行ったよね」
「そうそう。いつもサラ、うまい棒買ってたんだよね。コーンポタージュ味。でも、もうあの店、俺の時代には残ってないんだよね。店主のおばあちゃんが亡くなったらしくて」
「えっ、そうなの⋯⋯。でも、今行けば、あのおばあちゃんに会えるってことだよね」
「そうだけど、俺たちがここに来た目的は、駄菓子屋じゃないからさ」
「⋯⋯うん」
「あっ、すみません、この次の信号を右に曲がった、郵便局の前で止めてもらえますか」
郵便局の前で、タクシーを降りる。
隣には、懐かしいサラの家。
「懐かしい。あっ、私の自転車がある」
サラは驚きに目を輝かせている。
だが、俺は言葉が出なかった。
何度も思い出し、後悔した、あの日の光景と照らし合わす。
寸分の狂いもなく、あの日と同じ、苦い感情が甦ってきて、また胸が痛んだ。
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