第8章 追憶 (9回目)

18/24
前へ
/229ページ
次へ
 タクシーの窓の外の景色は、まるで俺の脳内の記憶を映した映画を鑑賞しているかのような、そんな不思議な感覚がした。  あと15分ぐらいで着くか――。  「和也、見て。ほら、 懐かしい。あの駄菓子屋さん、二人でよく行ったよね」 「そうそう。いつもサラ、うまい棒買ってたんだよね。コーンポタージュ味。でも、もうあの店、俺の時代には残ってないんだよね。店主のおばあちゃんが亡くなったらしくて」 「えっ、そうなの⋯⋯。でも、今行けば、あのおばあちゃんに会えるってことだよね」 「そうだけど、俺たちがここに来た目的は、駄菓子屋じゃないからさ」 「⋯⋯うん」  「あっ、すみません、この次の信号を右に曲がった、郵便局の前で止めてもらえますか」   郵便局の前で、タクシーを降りる。  隣には、懐かしいサラの家。 「懐かしい。あっ、私の自転車がある」  サラは驚きに目を輝かせている。  だが、俺は言葉が出なかった。  何度も思い出し、後悔した、あの日の光景と照らし合わす。  寸分の狂いもなく、あの日と同じ、苦い感情が甦ってきて、また胸が痛んだ。 
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加