第8章 追憶 (9回目)

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「サラ。待ち合わせ、13時だったよね」 「まだ12時半だから、間に合ったみたいだね。いや、ちょっと待って」 「どうしたの」 「⋯⋯違う。私、12時半過ぎから、待ってたんだ。だから、そろそろ隠れないと」 「なぜ、そんなに早く」 「待ちきれなかったから⋯⋯」   顔を赤らめるサラに強く手を引かれ、向いの家の影へ隠れた。  それと同時に、サラの自宅の玄関が勢いよく開いて、中から10歳のサラが姿を現す。  辺りをキョロキョロと見回している。  「サラ、可愛い!」 「昔は腰くらいまで髪があったから、いつも三つ編みしてたんだよね。懐かしいなぁ」   家の前に立っている10歳のサラは、さっきからしきりに手の中に持つ、小さな何かを確認している。  「手の中に、何か持ってるのかな」 「あれね⋯⋯四つ葉のクローバーなの」 「えっ、なんで!」   サラの言葉に、自分の耳を疑う。  まさか、四つ葉のクローバーだなんて。  俺が必死になっても見つけられなかった。  あの日から、もう探すのはやめた、四つ葉のクローバー。
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