第1章 誕生日 (1回目)

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「眩しいっ!」  トイレの光に、思わず目を背ける。  ほろ酔いの幸福感が一気にシラケてしまうくらいの、強い蛍光灯の光が、容赦なく私の目を攻撃する。  辺りの眩しさに、少し目が慣れたころ、手洗い場の鏡を、恐る恐る覗き込んだ。  そこに映っていたのは、ファンデーションはひどく崩れ、涙で落ちたマスカラが、目の周りを黒く染めた、パンダのような情けない、自分の姿だった。  おまけに、泣き腫らした目は、ヒビが入ったガラスみたいに血走っている。  ワイン混じりの、小さなため息を吐いた。  こんな顔を彼に見せてたんだ。  もう、最低――。  これも「見ず知らずの男性の前で泣く」っていう、新しい経験なのだろうか。  やだやだ。  あのリストには、絶対に入れたくない。  崩れた化粧を直し、足早に席へ戻る。  すっかり酔いが覚めてしまったのか、もう床が動いては見えなかった。 「あれ⋯⋯」  さっきまで座っていた席には、ポツンと寂しそうな、飲みかけのウイスキーグラスだけが置かれている。  まるで、これまでの出来事が幻だったかのように、岸本さんは忽然と姿を消していた。  何が起こったのか、しばらく理解ができず、呆然とその場に立ち尽くす。 「お連れ様は先にお帰りになられましたよ」  バーテンの声に、ハッとする。  もしかして、私が泣いたりしたから、嫌になって帰ってしまったんじゃないだろうか。  恥ずかしさと、申し訳ない気持ちに襲われて、がっくりと肩を落とす。  できることなら、また岸本さんに会いたい。  今日のことを謝りたいのもそうだが、なにより、また彼と話したいと心から思った。  あの、心安らぐような、優しく温かい笑顔が、もう一度見たかった。
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