第8章 追憶 (9回目)

23/24
前へ
/229ページ
次へ
 そのとき、前を横切った10歳の俺が、コソコソとポストに隠れる。  「ほら、お前、しっかりしろよ!」と、その背中に怒鳴ってやりたい気持ちを、グッと我慢して飲み込む。頼りない後ろ姿だなぁ。  隣にいたサラが、何の迷いもなく、10歳の俺に向かって、小走りで向かっていった。  「ねぇ、君。佐藤和也くんだよね」   ポカンとしている10歳の俺と、サラのやり取りは、それ以上は聞こえなかった。  冷静に考えたら、不思議な光景だ。  10歳の俺の肩に、22歳のサラが手を掛けて、「頑張れ!」と言っているのを、32歳の俺が見てるだなんて――。  戻ってきたサラがケラケラと笑っている。  何がそんなにおかしいのだろう。 「和也くんは、やっぱり和也だった」 「そりゃそうだ。俺だもん。それに10歳の俺、めちゃめちゃ励まされてるじゃん」 「昔はいつもこうして励まされてたでしょ」 「なんだよ、俺ってそんなに頼りなかった」  この感じ、まるであの頃みたいだった。  サラは小学生の頃ような表情をしていた。  なんだか不思議で、嬉しくて。  胸の中に、ポッと温かなあかりが灯る。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加