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第9章 別離
***
《 1999年3月25日 》
「いつか迎えに行くから、そのときに結婚しよう。サラ」
サラを引き寄せ抱き締める。
過去の悲しい歯車を、俺たちの手で変えたという喜びと、全てが終わった安堵感に、胸が熱くなる。
だが、未来が変わったということは、すなわちサラとの別れも、同時に意味していた。
別れを覚悟していたのなら、口から衝いて出たプロポーズの言葉は、「どの時代のサラ」へ向けて言ったのだろう。
――ふと、そんなことを考えていた。
腕の中にいる彼女だろうか。
それとも、未来の彼女なんだろうか。
この数ヶ月間、十分に苦しんだ。
サラの死や、自分の存在意義、過去や未来を変えてしまう罪の意識とも向き合った。
この苦しみと引き替えにしてでも、サラの未来がこの先に繋がっているなら、それでいいと思っていた。
よかったんだよな。これで――。
「たしか、あの日、細かい雨が降っていたんじゃなかったかな。あの頃のお気に入りの赤い傘を差して、和也を待っていたような、そんな記憶がある」
「あぁ、そう言われれば。天気まで、変わったってことなのか」
「そうみたいだね。私たちが気付いていないだけで、もっと他にもいろいろな記憶が変わっているのかもしれない」
「⋯⋯気づかないうちに」
「でもありがとう、和也。私をここに連れてきてくれて。やり直すチャンスをくれて。これで、和也とのいい思い出が、私の心の中に残るはずだよね」
「きっとね。実はさ、サラをここに連れてくることを、初めは迷っていたんだ。でも、これでよかったんだよね。たぶん、サラと一緒に来ることが、正解だったんだと思うよ」
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