第9章 別離

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 サラの黒髪を、そっと撫でる。  だが、ピタリとその手が止まる。 ――いや。正解って、誰の正解なんだ。  これは本当に、俺たちが望んだ正解なのだろうか。  意外なほど、すんなりと過去が変わったことも、正直言えば、俺の中で引っ掛かっていた。  何かに導かれるようにして、この場所へ、サラと来たことも。 ――もしも、俺たちが存在する理由自体が、「俺たちの役目」だったとしたら。  俺と、この時代のサラは、他の時代に生きる「本物の俺たち」が失敗した過去を、やり直すために存在していて、誰かが決めたシナリオ通りに、俺たちが動いていたとしたら。  この愛し合う気持ちも、「俺たちの役目」のためだけに発生していたとしたら。  元の時代へ戻ったときに、この時代の記憶を失くしてしまうのは、俺たちの記憶が残ることで困る奴が、どこかにいるからじゃないのか。 「過去が変わったから、私たちのこの先の未来も、もちろん変わるんだよね」 「⋯⋯うん。たぶん、そうだと思う」 「じゃあ、それぞれの時代に戻ったとしたら、この数ヶ月間の思い出はどうなるの。和也とバーで出会ったことも、フェアリーパークに行ったことも、江ノ島も、温泉旅行も。全部消えるなんてことないよね、和也」 「それは⋯⋯」   俺は、静かに目を伏せた――。
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