第9章 別離

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 そうだよ、サラ。  ここ数ヶ月間で一緒に作った思い出は、海の泡のように、跡形もなく消えてしまう。  未来に存在するかもしれないサラは、君と姿形は似ていても、同一人物ではない。  ここに来たばかりのころは、この時代のサラと、未来のサラが、一時的でも別の感情と記憶を持つことが、そこまで重要だと考えていなかった。  だが、掛け違えたボタンを、正しい位置に直すように、一つ一つの過去を徐々に変えながら、今の俺たちの気持ちに関係なく、記憶は薄れていくんだ。  この時代のサラとの別れが、こんなに大きな悲しみや痛みを伴うとは考えなかった。  変えてしまった過去は、もう二度と元には戻せないと、覚悟したはずなのに――。  小学校のサラAに、恋心を抱いていた。  この時代に来て、22歳のサラBを愛するようになった。  それならば、これから出会う未来のサラCに、俺はどんな感情を抱くのだろう。  恋人か結婚相手か、ただの友達か、はたまたすれ違うことすらない見知らぬ関係か。  何かに導かれ、時空を行き来していたように、何かに導かれて、未来へと戻っていく。  だから、俺たちを動かすものに、たとえ抗ったとしても、何の意味もないのだろう。  俺とサラの手によって動かされた新たな歯車は、すでに大きな回転始めて、もう誰にも止めることはできないのだから。 「サラ⋯⋯戻ろうか」  
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