第1章 誕生日 (1回目)

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*** 《 2010年 9月24日 》 ―― あなたの願いは何ですか。  もしそう訊かれたとしたら、まず真っ先に思い浮かべることが、私にはある。  まだ無邪気だった子どものころに、結婚の約束を交わした男の子がいた。  でも、彼とは長い間会っていない。  今どこで、何をしているのかも知らない。  そんな有効期限切れの約束だったとしても、願いは何かと訊かれたら「彼に会いたい」と、迷わず答えるだろう。  それほどに彼の存在が私の人生の節目節目において、この弱い心を支えてくれていた。  自分自身よりも、遥か昔に交わした約束の方が、自分を肯定してくれるだなんて、想像するだけでも悲しく思えるけれど、それが揺るぎない事実でもあった。  その一方で、時の流れと共に、その願いが心の中で風化されつつあることも、また一つの悲しい現実だった。  幼い頃は「願い続けていれば叶う」と、何度も呪文のように言われ続けてきた。  でも、彼への強い想いですら、徐々に変化していくのだから、呪文を唱える大人になった今はもう、「願い続けても叶わないもの」があることも、痛いほど理解している。
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