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サラは俯き、静かに涙を流していた。
声も上げず、表情を歪ませることもなく、ポロポロと切ない気持ちが溢れ出ていくように。
大鏡に映った涙は、壁の照明に照らされてキラキラと輝いていた。
鏡の存在をサラに伝えたのは俺なんだから、この涙を流させているのも俺のせいだ。
だが、この先に進めば、涙の理由も苦しみも忘れて、それぞれの世界で何事もなかったように生きていける。その方が、サラにとって幸せに違いない――。
「本当に、ここで別れなきゃならないの。他に方法はないんだよね、和也」
「そうだよ。他に選択肢はない」
「22歳の誕生日に、このバーで和也と出会った思い出も、全部消えちゃうんだよね。そんなの、ひどいよ⋯⋯」
サラは声を詰まらせる。
「⋯⋯サラ」
「和也と一緒に2021年に着いて行くのは、どうしてもダメなの? 他には何も望まないから。ただ、和也のそばにいられたら、それだけでいいから」
たぶん、それが、真っ赤な目をして泣きじゃくるサラの、最後の苦しい願いだった。
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