第9章 別離

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 サラは俯き、静かに涙を流していた。  声も上げず、表情を歪ませることもなく、ポロポロと切ない気持ちが溢れ出ていくように。  大鏡に映った涙は、壁の照明に照らされてキラキラと輝いていた。  鏡の存在をサラに伝えたのは俺なんだから、この涙を流させているのも俺のせいだ。  だが、この先に進めば、涙の理由も苦しみも忘れて、それぞれの世界で何事もなかったように生きていける。その方が、サラにとって幸せに違いない――。 「本当に、ここで別れなきゃならないの。他に方法はないんだよね、和也」 「そうだよ。他に選択肢はない」 「22歳の誕生日に、このバーで和也と出会った思い出も、全部消えちゃうんだよね。そんなの、ひどいよ⋯⋯」  サラは声を詰まらせる。 「⋯⋯サラ」 「和也と一緒に2021年に着いて行くのは、どうしてもダメなの? 他には何も望まないから。ただ、和也のそばにいられたら、それだけでいいから」   たぶん、それが、真っ赤な目をして泣きじゃくるサラの、最後の苦しい願いだった。 
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