111人が本棚に入れています
本棚に追加
「できないんだよ。サラが同じ時代に、二人も存在するわけにはいかない」
「未来の私と、絶対に会わないようにするから」
「その時代に一日いるだけとは、わけが違うんだよ。きっとうまくはいかない」
「⋯⋯ひどいよ。どうしてそんなに、素っ気ない言い方するの。もう二度と会えないんだよ。簡単に諦めたくなんかないよ」
サラのこぼれ落ちる涙を、指で拭う。
「ねぇ、サラ。今の記憶がなくなっても、また必ず、俺たちは出会うはずだから。すぐじゃないかもしれないけど、でもサラのこと、必ず俺が探し出すから」
泣き腫らした顔のサラを優しく抱き寄せ、その感触を記憶するように唇を重ねた。
上品で甘いバニラにも似た、心地よい香りがふわっとする。
いつもサラが付けている香水の香り。
バーで横に座ったときも、遊園地でキスをしたときも、江ノ島の帰りの車でも、いつもこの香りがしていた。
その甘い香りを思いっきり吸い込むと、今までの記憶が、また鮮明に甦る。涙の味がするキスと、甘く優しいバニラの香り。
蜃気楼のように霞んで消えてしまわないように、できる限り、サラを身体と心に焼き付けておきたかった。
最初のコメントを投稿しよう!