第9章 別離

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「できないんだよ。サラが同じ時代に、二人も存在するわけにはいかない」 「未来の私と、絶対に会わないようにするから」 「その時代に一日いるだけとは、わけが違うんだよ。きっとうまくはいかない」 「⋯⋯ひどいよ。どうしてそんなに、素っ気ない言い方するの。もう二度と会えないんだよ。簡単に諦めたくなんかないよ」   サラのこぼれ落ちる涙を、指で拭う。 「ねぇ、サラ。今の記憶がなくなっても、また必ず、俺たちは出会うはずだから。すぐじゃないかもしれないけど、でもサラのこと、必ず俺が探し出すから」   泣き腫らした顔のサラを優しく抱き寄せ、その感触を記憶するように唇を重ねた。  上品で甘いバニラにも似た、心地よい香りがふわっとする。  いつもサラが付けている香水の香り。  バーで横に座ったときも、遊園地でキスをしたときも、江ノ島の帰りの車でも、いつもこの香りがしていた。  その甘い香りを思いっきり吸い込むと、今までの記憶が、また鮮明に甦る。涙の味がするキスと、甘く優しいバニラの香り。  蜃気楼のように霞んで消えてしまわないように、できる限り、サラを身体と心に焼き付けておきたかった。
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