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途切れたサラの声は、薄闇と共に姿を消し、強く掴んでいたはずの手が虚しく空を切っただけで、もうそこに誰もいなかった。
あぁ――。
声にならない声が漏れる。
強く彼女を掴んでいた拳を握った。
まだ残る手の温もりだけが、サラがそこにいたことを証明していた。
堪えきれない寂しさに襲われ、階段を登り切った扉の前で座り込むと、一歩も動けなくなってしまった。
身体の芯の部分の力が抜けて、魂が影のように消えてしまいそうだった。
抗えないものだと分かっていたけれど、一縷の希望すらも絶たれてしまった現実に、恐怖を覚えて、小さく震えていた。
未来って奴は、希望に溢れていて、期待に胸躍らせるもんじゃないのかよ――。
この先に広がっている未来には、濃い闇だけが続いているだけのように思えた。
一人になって、さらに、この扉の先にある世界が、物凄く恐ろしく感じる。
元々の世界とは全く違う景色が、存在するかもしれないのだから。
だが、たとえ、そこに廃墟のような街が広がっていたとしても、俺には選択肢なんてものは初めからない。
後ろを振り向いてみても、やっぱり暗い海のような闇が、ただそこにあるだけだった。
――進むか。
その有り様が一変した世界を見届ける責任が、きっと俺にはあるのだろう――。
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