第2章 遺影

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 まだ世間的には、「アイドル」という肩書きが、女の子から黄色い声援を受けるだけの、チャラチャラとした仕事と考える人が一定数いることも、十分に理解している。  だが、俺らの仕事は、行き場のない悩みや、答えが出せない迷いを抱えた人々の、道しるべになれるという自負がある。  傷ついた人の心を、そっと癒し、その心に寄り添うことができる、役目を担っていると。  自分で望んで、この立場に立たせてもらっているけれど、人に誇れるような秀でたものすら持っていない俺が、ここに立ち続けられているのは、ただ、恵まれていただけ。  その全ては、たくさんの人との出会いと、与えてもらえたチャンスのお陰だ。  だからこそ、その恩を、できる限り大きな形にして、ファンやスタッフに返せるようにと、これまでがむしゃらにやってきた。  だが、この立場だからこそ抱える、苦悩や、絶望に、苦しむ場面だってある。  いや、むしろ割合で言えば、苦しんでいる時間の方が多いかもしれない。  しかし、厳しい世界にいる人間は皆同じ。  苦しみ抜いたその先に、進む道が与えられているだけでも、恵まれていると思わなければならない。  一瞬、気を抜いただけで、俺の場所に違う奴が立つことだって、大いにあり得る世界。  だからこそ、運すらも味方にしながら、人の何十倍も努力しなくてはならない。  誰にも負けない実力をつけて、他の奴じゃ代わりがきかない、自分でいなくてはだめだ。  言い訳もせず、何事にもストイックに。  そして真摯に。 ――だが、正直、俺はそんなに強くない。  だから、弱い自分も受け入れて、目の前のことにむしゃらに取り組む姿勢が、次へと繋がっていく鍵ではないだろうか。
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