第2章 遺影

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 明日、クランクアップを迎える、主演ドラマの撮影現場。  都内某所にある、そのスタジオは、真夏日の撮影だっていうのに、一切冷房装置がない。  殺人的なスタジオだと、有名な場所。  外気以上に、蒸し暑いその場所で、今日も長時間の撮影をしていた。  大量の汗で変色したTシャツを着た撮影スタッフたちが、セットチェンジのために、慌ただしく駆け回っている。  そのわずかな時間に、熱を帯びた全身をくまなく冷やす。それも、俺の重要な役目。  演者が体調不良になるのが、最大の撮影遅延を生み、多くの人に迷惑がかかる。それだけは、なんとしてでも避けねばならない。  首から下げるハンディー型のファンと、スタッフが冷凍庫に入れて、キンキンに冷やしておいてくれたタオルを、首から掛けて、身体から発する熱を、できるだけ鎮める。  だが、脳みそが沸騰しているかのようで、使い物にならない。ぼやっと白いモヤがかかる。  さっきのシーンは、さすがにやばかった。  撮影の本番中に、視界が霞んで、危うくセリフが飛びそうになった。  今日は、あと何カット残っていただろう。  ドラマの座長である俺が、キツイだなんて、弱音を漏らすわけにはいかない。  タイトな撮影スケジュールと、例年以上の猛暑で、現場スタッフ全員が過酷な状況のはずなのに、誰一人愚痴も言わず、いい作品を作ろうと、現場の雰囲気を大事にしている。  そんな空気に水を差すことになる。  ここは気丈に振る舞わなくては。  画面を通した向こう側の人々に、このドラマに関わる人たちが込めた強い思いが、必ず届くはずだと、俺は信じていた。  
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