第2章 遺影

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 多くの人に力をもらいながら、なんとか形にしてきた、この過酷な撮影も、残すところあと1日。  最後まで気を抜かずに踏ん張らないと。  スタッフが持ってきてくれた、キンキンに冷えたお茶を一気に飲み干し、集中を切らさないように、大きく息を吐き出して、気合いを入れ直す。  次のシーンの長ゼリフ、途中で噛んだりして、相手役の人に迷惑はかけられないから、今のうちに、もう一度確認しておくか。  台本に手を伸ばした瞬間、隣に置いておいたスマートフォンが、音を立てて震える。   「おぉ、ビビった~」   スマホの画面に表示されていた名前は、母さんだった。  何かがあったのだろうか。  いつもなら、メールを送ってくる方が、断然多いのに。電話なんて珍しい。  「撮影再開まで、何分ぐらいありますか」   近くにいたスタッフに訊ねると、あと15分ぐらいです、と返事が返ってきた。  それなら、少しは話せるか。  これから母さんにどんな話をされるのか、あまり意識もせず、手の中で震え続ける、スマホの通話ボタンをタップした。
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