第2章 遺影

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「ちょっと、和也、聞いてるの。今週の土曜日、そっちにお邪魔するわよ」   母さんの声が、ようやく耳に届いたとき、誰かに肩を後ろから軽く叩かれて、息が詰まりそうになる。  たった数分の電話が、俺を小学校の頃に引き戻し、その場に置き去りにする。 ――あの日だ。  サラに別れの言葉を言えなかった。  「岸本さん、撮影再開します。お願いします」   声を掛けたスタッフに、分かりました、と力なく返事をする。  「⋯⋯母さん、分かった。また近くなったら、電話するよ。駅まで迎えに行くから。そろそろ撮影始まるし、切るよ。じゃあ」   一方的に、母さんの電話を切った。  頭を抱え込むと、あぁ、という声が漏れる。  何も考えられない。息を吸うのも苦しい。  意識は、暗い闇夜の海の底へと、沈んで行ってしまいそうだった。  その気持ちを、無理にでも切り替えるように、頬を両手でパンパンと叩き、鉛のように重たい身体を起こすと、たくさんのスタッフが待つセットへと向かって行った。
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