第2章 遺影

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*** 《 2020年7月18日 》  自宅から徒歩5分の最寄り駅のロータリー。  駅の近くは混雑しているので、そこから少し離れた場所に車を止めて、しばらく辺りの様子をうかがいながら、母さんを待っていた。  約束をした土曜の夕方。  過酷だった、ドラマの撮影も無事に終わり、少しだけまとまった休みをもらった。  ここは住みたい街ランキング、常連の街。  駅前は人々でごった返している。  ただし平日と休日では人の層が全く違う。  平日は、ビジネスマンか、タワマンの住人、どちらかの二択。だが、休日になると、9割がた、それ以外の人々で街は溢れ返る。  その大部分が、駅前の商業施設へ買い物に訪れた人々や、シネコンを利用する人々だった。  俺は、マンションの利便性や、セキュリティの高さで、ここに住むことを決めたから、正直言って、この街への愛着は特にない。  ただ都心の割に緑が多く、生まれ育った街の雰囲気に似ている点は気に入っている。  商業施設から駅に向かって人が流れていく。  早い足取りで、家路を急ぐように、買い物の袋を下げた人々が、駅へ滑り込んでいった。
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