第2章 遺影

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「母さん、こっち!」 「やだぁ、和也そこにいたの。まったく、この駅は、人が多いわねぇ。迷っちゃったわよ。あら、あなた、また車変えたの。それじゃあ、見つけられないじゃない~」  声の大きい母さん節が、今日も冴え渡る。  その様子に、俺はホッと息をつく。  こんなに元気そうに見えても、一昨年、心臓の大病を患って、完治した今もまだ、定期検診に病院へ通っている。 「いやいや、久しぶりに会う息子に、いの一番で掛ける言葉が、それかよ~。しかも、車変えてないから」 「あら、そうなの。前に乗ってたのって、もっと大きかったじゃない」 「車のサイズも変わってませんよ」 「あら、思ったより元気そうね。でも、少し痩せたんじゃない」 「ドラマの役作りで、少しね」 「そうなの~。ほら、この間の電話、元気なかったから」 「そんなことないよ。って言うか、その大荷物どうしたの。海外旅行の荷物の量じゃん」 「あぁ、これね」  母さんは、重たそうに抱えた荷物を、車の後部座席に置いてから、助手席に腰を下ろすと、待っていましたとばかりに、その大荷物の説明を始めた。  その話を、俺の部屋に着くまでの間に、延々と聞かされた。  要は、俺の身体を気遣って、実家からわざわざ、俺の好物を持ってきたらしい。 
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