第2章 遺影

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「そんな重いもん、わざわざ持って来なくたって、そっちに帰ったときでよかったのに」 「どうせ、和也のことだから、自炊してないんでしょ!」 「まぁ、そうだけどさ⋯⋯」   照れ隠しで、そんな風に言い返したけど、久々の母さんの手料理は、かなり嬉しい。  小学生の頃から、親一人子一人で育った。  俺が中学生になると、母さんは二つの仕事の掛け持ちをして、身体を休める暇もないくらいに忙しいはずなのに、夜の仕事に行く前には、必ず俺のために、夕食を用意しておいてくれた。  毎日の一人の夕食が、全く寂しく感じなかったのは、母さんの手料理の温もりのお陰だった。  今の仕事を始めた理由も、そんな母さんを楽させてあげたいという思いからだった。  金さえあれば、母さんと二人で、夕食を食べる時間ができると。  だが、皮肉なことに、俺の仕事が忙しくなればなるほど、母さんへの仕送りが多くなっても、一緒に食事する時間が増えることは、もう二度となかった。  母さんも「私は働くのが好きなのよ」と言って、還暦になるまで現役で働き続けているし、俺の世話にはなりたくないんだそうだ。  まぁ、母さんが元気なら、それでいいが。
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