第2章 遺影

12/25

111人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
 母さんが持ってきてくれた料理をつまみながら、その夜は二人で飲んだ。  冷蔵庫にあった、最高級ワインを開けて。  これまで、親子水入らずで飲む機会なんてなかったから、母さんのグラスに赤レンガ色のワインを注ぎながら、改めて俺も大人になったんだなと、しみじみ感じた。  若い頃は、ヤンチャばかりして、散々迷惑かけたから、母さんに親孝行ぐらいしてあげたいと、常々思ってはいても、いまだに何も実行できていない。 「ねぇ母さん。旅行って、行きたい?」 「何よ、急に」 「ほら、好きでしょ、旅行。もし行くとしたら、どこに行きたい?」 「和也が連れて行ってくれるなら、どこでも嬉しいわよ」 「えっ、それって俺も行く感じ?」 「いいじゃないの。たまには、一緒でも」 「えぇ~。俺はいいよ」 「そんなこと言って、照れちゃって」 「照れてないし」 「ふふっ。でも和也、ありがとうね。気を遣ってくれたんでしょ。まぁ、私は、あなたが人様のために働ける場所があって、健康なら、それが一番の親孝行よ」  母さんは目を細めて微笑んだ。  その目の奥が潤んでいたような気もする。  疲れ果てていた身も心も、母さんの料理と、この時間に癒されていた。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加