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母さんが持ってきてくれた料理をつまみながら、その夜は二人で飲んだ。
冷蔵庫にあった、最高級ワインを開けて。
これまで、親子水入らずで飲む機会なんてなかったから、母さんのグラスに赤レンガ色のワインを注ぎながら、改めて俺も大人になったんだなと、しみじみ感じた。
若い頃は、ヤンチャばかりして、散々迷惑かけたから、母さんに親孝行ぐらいしてあげたいと、常々思ってはいても、いまだに何も実行できていない。
「ねぇ母さん。旅行って、行きたい?」
「何よ、急に」
「ほら、好きでしょ、旅行。もし行くとしたら、どこに行きたい?」
「和也が連れて行ってくれるなら、どこでも嬉しいわよ」
「えっ、それって俺も行く感じ?」
「いいじゃないの。たまには、一緒でも」
「えぇ~。俺はいいよ」
「そんなこと言って、照れちゃって」
「照れてないし」
「ふふっ。でも和也、ありがとうね。気を遣ってくれたんでしょ。まぁ、私は、あなたが人様のために働ける場所があって、健康なら、それが一番の親孝行よ」
母さんは目を細めて微笑んだ。
その目の奥が潤んでいたような気もする。
疲れ果てていた身も心も、母さんの料理と、この時間に癒されていた。
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