第2章 遺影

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 母さんとグラスを交わしながら、地元や、昔のことを、たくさん話した。  ドブ川に自転車ごと突っ込んだこととか、スケボーで車に轢かれそうになったとか、金髪にピアスで学校に行ってこっぴどく怒られたときの話とか――。  バカなことをやって、叱られてばかりだったけれど、母さんとこうして腹を抱えて、あの頃の過去を、笑い話にできる大人になれたことを、感謝しなければならない。 ――周りの人への感謝を忘れるな。 ――大切な人はお前の命を懸けて守れ。  母さんが説教の最後に、必ず言う言葉。  その言葉に背かないように生きてきたつもりだけど、俺はそんな人間になれているかな、母さん。  サラの話は、一度も出なかった――。  俺がその話に触れなかったからなのか、母さんも、サラの話題を一切出さなかった。  まだ半信半疑で、俺の心は揺らいでいる。  自分の目で確かめるまでは信じられない。  明日、母さんと一緒に葬儀場へ行って、この目で確かめることにした。   万が一別人かもしれないし、勘違いかもしれない。今は余計なことは考えず、そうであって欲しいとただ願うだけだった。
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