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《 2020年7月19日 》
朝早い時間なのに、もうすでに日差しが地面を照り始めていて、喪服の下は蒸し暑く、ジトっと纏わり付く汗が、気持ち悪い。
ついこの間まで、撮影でスタジオにこもりきりだった身体に直射日光は、さすがに堪える。
品川の葬儀場に入るとすぐに、辺りの人々が声を抑えてすすり泣く声が、耳に届いた。
年配の人は親族で、若い女性は職場の人や友人なのだろうか。その中に知った顔はいない。
受付を手早く済ませると、広い葬儀場の中へと歩みを進める。
早く真実が知りたいはずなのに、鉛の塊を身に付けているかのように身体が重くて、うまく前に足が進められない。
鈍い足取りで、どうか勘違いであってくれと、何度も心の中で叫び続けていた。
「和也。サラちゃんのお母さんよ」
母さんの目線の先にいた女性が、こちらに気付いて、深々と頭を下げた。その顔は生気が失われて、憔悴しきっている。
緊張に固まった表情で、静かに頭を下げた。
女性の顔に見覚えはない。
サラのお母さんはいつも仕事で忙しく、授業参観や行事に来ることも少なかった。
それをサラが愚痴っていたから間違いない。
「母さん、ちょっと行ってくるわね」
母さんは、そう俺に言うと、会釈をした女性の方へと、足早に向かって行った。
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