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奥の部屋に、白い花々が見える。
その映像が視覚に飛び込んできた瞬間、胸を勢い良く掴まれたかのように苦しくなる。
しかし、さっきまで重く引き摺っていた足は、「これ以上見てはいけない」という意識とは逆に、引き寄せられていった。
だだっ広い部屋の正面に立派な祭壇が設けられ、そちらに向けられたたくさんの椅子が、整然と並んでいる。
白菊が周り一面をびっしりと囲む中で、存在感を放つ大きな遺影は、俺を待っていたかのように笑顔を見せていた。
頭を強く殴られたかのような衝撃が全身を貫き、手足が小さく震え始める。
意識がどこか遠くへ薄れて行きそうになって、さっきまで耳に届いていたすすり泣く声も、沈黙に飲み込まれるように姿を消した。
サラだった――。
彼女の笑顔に間違いない。
それは、小学校4年生の終了式のあと、「3月25日の13時に東京に行くから、その前に家に来て。渡すものがあるから」と、恥ずかしそうに言った、サラの最後の笑顔のそのままだった。
大好きなサラの笑顔。
あのときと全く変わらない。
別れてからも時々、ふとサラを思い出すことがあった。
同じ東京の空の下にいるんだと、心のどこか片隅で感じていたんだ。
アイドルとしてテレビに出られるようになれば、サラはきっと、俺の姿を見つけてくれると信じていた。
心臓が強く締め付けられて苦しい。
息を吸い込むことも、苦痛に感じられる。
サラのいないこの世界に、俺だけが生き残ってしまったみたいだ。
サラの遺影に背を向けると、壁に手を掛けて、ふらつく身体を支えながら、部屋を出た。
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