第2章 遺影

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 奥の部屋に、白い花々が見える。  その映像が視覚に飛び込んできた瞬間、胸を勢い良く掴まれたかのように苦しくなる。  しかし、さっきまで重く引き摺っていた足は、「これ以上見てはいけない」という意識とは逆に、引き寄せられていった。  だだっ広い部屋の正面に立派な祭壇が設けられ、そちらに向けられたたくさんの椅子が、整然と並んでいる。  白菊が周り一面をびっしりと囲む中で、存在感を放つ大きな遺影は、俺を待っていたかのように笑顔を見せていた。  頭を強く殴られたかのような衝撃が全身を貫き、手足が小さく震え始める。  意識がどこか遠くへ薄れて行きそうになって、さっきまで耳に届いていたすすり泣く声も、沈黙に飲み込まれるように姿を消した。   サラだった――。  彼女の笑顔に間違いない。  それは、小学校4年生の終了式のあと、「3月25日の13時に東京に行くから、その前に家に来て。渡すものがあるから」と、恥ずかしそうに言った、サラの最後の笑顔のそのままだった。  大好きなサラの笑顔。  あのときと全く変わらない。  別れてからも時々、ふとサラを思い出すことがあった。  同じ東京の空の下にいるんだと、心のどこか片隅で感じていたんだ。  アイドルとしてテレビに出られるようになれば、サラはきっと、俺の姿を見つけてくれると信じていた。  心臓が強く締め付けられて苦しい。  息を吸い込むことも、苦痛に感じられる。  サラのいないこの世界に、俺だけが生き残ってしまったみたいだ。  サラの遺影に背を向けると、壁に手を掛けて、ふらつく身体を支えながら、部屋を出た。 
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